研究概要 |
1970年代末に発見された海底熱水噴出孔は,化学進化的にも極めて興味深いものであり,これまで種々の系での模擬実験が行われてきたが,多くは閉鎖系を用いたものであった。本研究では実際の海底熱水系により近いと考えられる超臨界水熱水フローリアクターを作成し,そこでの有機物の生成反応について調べることを目的とした。 本研究において作成したフローリアクターはHPLCポンプ,赤外線ゴールドイメージ炉,コールドバス,圧力コントロールバルブなどから構成されており,加圧状態で任意の温度で2〜10分間加熱後,急冷(クエンチ)することができる。これを用いて海底熱水系を模擬した種々の化学反応を行うことが可能となった。本フローリアクターを用いた実験により,400℃,25MPaという,海底熱水系深部に近い環境下で,種々のアミノ酸の生成を含む有機合成反応が起こりうること,特に400℃という超臨界温度においては,通常の熱水条件と異なった反応が起こることが示された。例えば,ホルムアルデヒド,シアン化物イオン,アンモニウムイオンからは室温ではグリシンしか生成しないが,超臨界水中ではγ-アミノ酪酸やδ-アミノ吉草酸など,より複雑なアミノ酸の生成が認められた。また,超臨界状態ではグリシンの水溶液から未同定の分子種が生成した。今後,反応の解析のため,この分子種の同定を試みていく予定である。 また,海底熱水系を模擬した実験のためには,種々の金属イオンや鉱物,メタン・硫化水素などのガスなどが共存した系での実験が望まれる。本フローリアクターにガスや鉱物(固体)を直接導入することはできない。そのような実験のための実験装置の開発が望まれる。特に硫化水素は海底熱水系の反応を特徴づける化学種である。高温高圧下で硫化水素に耐えうる材質の選択が必要である。
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