研究概要 |
オホーツク海の深海底および推古海台の頂部において採取されたピストンコアを試料として,古海洋環境復元に関する研究を実施した.コア長は,前者では12.8m,後者は13.5mであった.堆積物中の生物起源炭酸塩およびオパール,還元態硫黄の含有量を測定すると共に,全岩分析を行い,鉄,チタン,アルミニウム,ケイ素,カルシウム,マグネシウム,リン,バリウム,銅,バナジウム,マンガンを測定し,それらの鉛直分布を明らかにした. これらのコアの堆積年代はいずれも判明していない.しかしながら,オホーツク海では,本コアに近接した海域で採取されたコアに対して,最近生物起源オパールの年代分布が明らかにされた.そこで,両者のコア中の生物起源オパールの分布を層序的に対比することによって,本コアの年代を推定した.その結果,本コアの下層に見いだされたオパール含有量の極小層(8-10m層)は最終氷期最寒期(約2万年前)に相当すると推定される.その層以浅の温暖期に相当する層準ではオパール含有量は急激に増加し,上層(0-3.5m層)ではほぼ一定となった.また,生物起源バリウム(アルミノケイ酸塩中のバリウム/アルミニウム比から算出)はオパールと全く類似した分布を示した.一方,酸化還元環境の指標となる還元態硫黄含有量は,オパールの分布とは逆に,最終氷期最寒期に極大を示した.また,全岩分析の結果,陸起源性である鉄,チタン,アルミニウム,カルシウムおよびマグネシウムも,還元態硫黄の分布と同様に,上層の温暖期には低濃度で一様に分布するものの,氷期に相当する8m層以深で急激な増加を示した. 本研究で得た結果を氷期のオホーツク海についてまとめると,(1)生物生産が低下した,(2)陸起源物質の供給が増加した,(3)海底は還元環境となった(還元態硫黄含有量の増加),ことが挙げられる.この様な氷期におけるオホーツク海の環境規定要因として海氷の形成が挙げられる.すなわち,海氷形成量の増加が有効な生物生産域を縮小させ,かつ陸起源物質の供給を促進させ,海洋の成層構造をより発達させたと考えられる. 推古海台コアにおいては,生物起源炭酸塩含有量は4-94%と,コア上層で大きな変動を示すが,全層における平均値は69%と比較的高く,本コアは炭酸塩堆積物であるといえる.コアの年代はNarite et al.(2002)の研究に基づいて推定すると,2.5m層では12万年前となる.この堆積速度から,氷期最寒期は30-50cm層に相当すると考えられる.この層準における炭酸塩含有量の平均値は43%であり,この上層と下層における値と比べても明瞭な減少が見出される.すなわち,推古海台頂部が北太平洋亜寒帯における石灰質プランクトンの生産を代表すると仮定すると,氷期は現在のような温暖期に比べて生物生産はむしろ低下していたのではないかと考えられる. この様に,オホーツク海とその外洋域である推古海台コア中に記録された生物生産の変動を復元した本研究結果は,これらの海域では,氷期における生物生産量は減少していたことを強く示唆している.
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