研究概要 |
準安定励起原子と標的分子との衝突による発光スペクトルの観測に液体窒素冷却型CCD検出器を導入し,ヘリウムビーム源のドリフトの影響を受けずまた測定時間を大幅に短縮することに成功した。CCD検出器による測定時間はノイズにより5分が限界であるため,複数の測定データからノイズを取り除いて加算しピクセル間の感度のばらつきを補正してスペクトルデータとする作業が必要であった。本研究によりノイズを取り除くアルゴリズムを新たに開発することにより,作業負担を軽減することができた。これにより,He(2^3S)原子とアンモニア分子から生成するNH(A^3Π,c^1Δ)の振動回転分布,塩化水素や臭化水素から生成するHCl^+(A^2Σ^+)やHBr^+(A^2Σ^+)の振動回転分布,硫化水素から生成するSH^+(A^2Π_i,v=0)の回転分布を詳細に測定できた。さらに,シミュレーションの計算精度を向上させることにより発光スペクトルの振動回転分布を詳細に解析でき,衝突エネルギー変化を調べることにより,イオン化や解離過程の反応ダイナミックスについての知見を得ることができた。この結果,HCl^+(A,v'=0)やHBr^+(A,v'=0)状態の回転分布が2重ボルツマン分布になることを初めて明らかにした。さらに,生成イオンであるHCl^+やHBr^+状態の回転分布が2重ポルツマン分布になることの反応ダイナミックスを詳細に研究するため,入射チャネルと生成チャネルについて精度の高いポテンシャル曲面を求め,波束伝播法によって生成イオンの状態分析を行った。この結果,ペニングイオン化反応He(2^3S)+HCl→HCl^+(A)+He+eの回転励起のダイナミックスを解明できた。この手法は一般的なイオン化や励起解離過程に適用できることが判った。
|