研究概要 |
近年,ベンゼン2量体カチオンの様々な構造に対してCASSCF/MRSDCIのレベルでab initio分子軌道法計算を行ない,サンドウィッチずれ構造が最も安定な構造であることを示した.本研究において,ベンゼン3量体カチオンにたいして同様の計算を行い,3量体カチオンにおいてもサンドウィッチずれ構造が最も安定な構造であること,さらに,そのずれ構造における励起スペクトルが実測のスペクトルをよく説明することを示した.ベンゼン3量体カチオンの最安定構造は,3つのベンゼン環が平行に並んだD_<6h>サンドウィッチ構造(r_<12>=r_<23>=7.299a.u.)から中心のベンゼン環がずれたC_<2v>サンドウィッチ構造(ずれr_<12>=r_<23>=7.299a.u.)の核間距離を持ち,(C_6H_6)_2^++C_6H_6の解離極限に対して0.43eVの結合エネルギーを持っている.これは,実測の結合エネルギーに近い値である.また,2C_6H_6+C_6H_6^+の解離極限に対して1.08eVの結合エネルギーで,得られた実測値(0.99〜1.23eV)との良い一致を示している.実験から提唱されているモデル(ベンゼン2量体カチオン+ベンゼン)はエネルギー的に不安定であることを示した. また,フェノール2量体カチオンについての実験では発見されていないプロトン供与フェノールのOH伸縮振動の基準振動を調べるためにフェノール2量体カチオンのいくつかの安定構造の電子状態に対するab initio分子軌道法計算を行なった.計算で得られたOH伸縮振動の基準振動は実験の範囲外にあり中性のフェノールモノマーのOH伸縮振動から大きなレッドシフトしていることが明らかとなった.
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