研究概要 |
重金属イオンによる分子認識として、金属調節タンパク質がある。これらのタンパク質群はシステインを多く含み、低分子という特徴があるが、取り込まれた金属イオンの配位数や配位構造は依然謎である。これは、亜鉛2価、カドミウム2価、水銀2価はd^<10>電子配置であるため、通常の方法では配位構造に関する知見を得ることができないためと考えられる。そこで、亜鉛2価、カドミウム2価、水銀2価のような12族金属チオレート錯体の合成を下記のように行い、その分光学的性質の測定を行った。 1 安定化配位子としてヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート(=L)を用いて、[LMCl],[LMBr],[LMSR]錯体(M=Zn(II),Cd(II),Hg(II),R=C_6F_5,cHex,Adなど)を合成し、その構造をX線解析により決定した。M-Xの伸縮振動をfar-IRとFT-Ramanを用いて決定した。その値とM-S結合距離に相関関係があることを明らかにした。また、この効果はランタノイド収縮あるいは相対論的効果に起因することを12族金属錯体としては初めて証明した。 2 かさ高いチオールとしてアダマンタンチオール(=HSAd)およびシクロヘキシルチオール(=HScHex)を用いて、2配位錯体([M(SR)_2])の合成を行った。しかし、無電荷の錯体のため溶解度が悪く、構造解析には至らなかった。しかし、そのM-S伸縮振動および硫黄から金属への電荷移動吸収帯のエネルギーが1と同様な挙動を示すことを明らかにした。 3 2と同じ配位子を用いて、3配位錯体((NEt_4)[M(SR)_3])(R=Ad,cHex)の合成を行った。このうち、亜鉛3配位錯体の構造解析に成功した((NEt_4)[Zn(SAd)_3])。これは世界で初めての成果である。さらに、2核亜鉛4配位錯体((NEt_4)_2[{Zn(ScHex)_3}_2])の構造決定にも成功している。これらの錯体を用いて各種スペクトル測定を行い、1と同様な挙動を示すことを明らかにした。 上記の様に亜鉛族チオレート錯体に関して多くの知見を得ることができた。さらに今後引き続いて、他の配位子系を工夫する必要があるとともに、他の分光法への展開も行っていく。
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