研究概要 |
本研究で、tacn(1,4,7-triazacyclononane)系配位子あるいはCp(cyclopentadienyl)系配位子をもつMn-MoおよびRh-W酸化物クラスターの合成とそれらの生成機構を調べるとともに、不飽和炭化水素化合物の酸化に対する触媒能を評価した。 (tacn^<(')>)MCl(M=Mn,Rh,tacn':tacnの窒素原子上にメチル、エチル、ヒドロキシベンジルなどの置換基を導入したもの)とモリブデン酸化物イオン、[Bu^n_4N]_2[Mo_2O_7]あるいはNa_2MoO_4との反応により極めてユニークな立方体構造を有する(tacn)Mn-Mo系クラスター[{(tacn)Mn}_2Mo_4O_<16>]・4H_2Oおよび三重架橋型構造を持つ(tacn')Rh-Mo系クラスター[(tacn')_2Rh_2(μ-MoO_4)_3]・17H_2Oの合成に成功した。そしてX線結晶解析を行い、その構造を明らかにした。これらのクラスターが染料(ピナシアノール:不飽和炭化水素化合物の一種)の酸化的脱色を触媒することを見いだした。 一方、Cp(cyclopentadienyl)系配位子をもつ酸化物クラスターとして[(Cp^*Rh)WO_4]_4クラスターを合成し、X線結晶解析によりその構造を同定した。このクラスターには二つの幾何異性体、windmill型(1)とtriple cubane型(2)、があることを見いだした。このクラスターが生成する機構をESI-マススペクトロメーター(混合とスプレイをミリセカンドで行うことができる手作りのスプレイヤーを有している)を用いて明らかにした。タングステン酸化物クラスター[(Cp^*Rh)WO_4]_4が生成する反応(アセトニトリル中、[Cp^*RhCl(μ-Cl)]_2と[n-Bu_4N]_2WO_4との1:2反応)を、開発した短寿命反応化学種測定用スプレイヤーを用いて、ESI-MSで追跡した。反応初期段階の化学種、[Cp^*RhClWO_4](1im)及び[Cp^*RhW_2O_7(OH)(CH_3CN)_3]^-の特徴的な同位体パターンを得た。1imはおよそ20ms以内に生成する反応活性なイオンで、金属酸素酸イオンが有機金属基によって縮合する第一段階の化学種である。このを基に1及び2が[(Cp^*Rh)_2W_<2->O_8(MeCN)_4]の組成から成るラダー骨格を経由して生成するメカニズムを提案した。
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