研究概要 |
[Cul(py)]4をはじめとする多核銅(I)錯体が紫外光を吸収してリン光を発する際,光励起状態では,金属クラスターの骨格が変形することが予想されている,この光励起構造を単結晶X線構造解析法に立体的に直接より検出することを目的として,装置の開発,解析手法の確立,化合物の探索をおこなった.液体窒素温度以下でも高精度のX線回折像が得られる,「低温真空X線カメラ」にレーザー光を導入する光照射装置,光照射時と非照射時の単結晶からのX線回折強度のわずかな差をとらえるために初めて開発した,イメージングプレートを用いた「多重露光機構」を組み込んだ.装置を強力なX線源をもつ放射光施設SPring-8に設置し実験をおこなった.光照射時のX線回折強度の変化から差フーリエ合成により,分子の変形した部分を検出し.最小2乗法でその変化量と励起分子の濃度を定量的に計算できる手法を確立した.対象化合物は,表題に掲げた銅錯体に加えて白金複核錯体など広く探索した.そのなかで可視光照射により.りん光を発する(Bu_4N)_2H_2[Pt_2(pop)_4]の単結晶について,光照射により白金原子同士が近づく方向に移動することをとらえた.計算の結果,単結晶中で1.4%の励起分子の白金原子間距離が約0.23Å短くなることがわかり,分光学的知見による予想に一致する結果が得られた.光励起単結晶X線構造解析法は,多核金属錯体のような,分光学あるいは分子軌道計算等で光励起構造の予測が困難な系に対しても重要な知見を与えることができることを示した.今後はさらに光照射時のX線回折強度の変化の検出精度を高めることによって,より寿命の短い,構造変化の少ない系にまで適用を広げることが可能となる.
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