研究概要 |
本研究の目的は、メタラジチオレン錯体[CpM(S_2C_2X,Y)]のメタラジチオレン環という金属キレート環の共役場の反応特性を、環の持つ芳香族性と不飽和性との両面から総合的に理解することにある。2年間に渡る研究成果としては、下記の点が注目された。 1.メタラジチオレン環の芳香族性に関しては、求電子置換反応の成果をラジカル反応に展開し、次のような炭素ラジカル、硫黄ラジカルとのラジカル置換反応を明らかにした。 (1)、炭素ラジカルに関しては、[CpCo(S_2C_2Ph,H)]錯体とAIBNより生成するイソブチロニトリルラジカルとの置換反応の位置選択性(Cp環への置換/ジチオレン環への置換)はBu_3SnH>Bu_3GeH>Bu_3SiHの順となり、14族元素(Si,Geなど)の水素化物のルイス酸性の違いに基づくと思われる添加効果を得た。 (2)、硫黄ラジカルとしては、ビス(ベンゾチアゾール)ジスルフィドから生成した硫黄ラジカルがベンゼン加熱還流下で、効率良く置換反応した。興味あることに、アセトニトリル中での加熱還流下では、ベンゾチアゾールラジカルの異性体であるN原子で置換した置換体が選択的に得られた。機構的には、イオン的な機構の可能性も考えられ、反応機構に関しては今後の課題である。 (c)窒素ラジカルの前駆体として用いられたN-ハロスクシンイミド(NXS)との反応では、イオン的な機構と思われるイミド置換体が得られた。さらに、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントインとの反応では、2つのジチオレン環が置換した複核イミド錯体が得られた。 2.メタラジチオレン環の不飽和性に関しては、コバルタジチオレン錯体とアジド化合物(TsN_3など)との反応で生成したC-S結合へのイミド架橋したイミド付加体[CpCo(S_2C_2Ph,H)NTs](2元付加体)とルイス塩基との反応において、ユニークな転位反応を見い出した。 (1)、イミド付加体と2等量のPPh_3およびP(OPh)_3とのベンゼン加熱還流下の反応では、架橋していたNTs基がCp環のC-H結合に挿入するという珍しい転位反応が起こった。過剰量のPPh_3を用いると、NTs基とPPh_3との二つがCp環に置換した2置換体が得られるという初めての例を見い出した。過剰量のP(OPh)_3との反応では、これも珍しいP(OPh)_3が5価のArbuzov型の転位反応をしてイミド基のNに結合して、Cp環のC-H結合に挿入した1置換体が得られた。現在、さらにこれら反応の機構を検討中である。 なお、上記の結果をもとに、メタラジチオレン錯体の新規な機能性材料としての可能性および有機合成反応への利用などへの展開が今後の課題である。
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