研究概要 |
分離分析において古くから利用されてきたアセチルアセトンや8-キノリノール,トロポロンなどの配位飽和金属(III)キレートが,水素結合受容体あるいは中性配位子(錯体配位子)として働くことが明らかになってきた。本研究では,酸性キレート抽出剤(HA)としてテノイルトリフルオロアセトン(Htta)とヘキサフルオロアセチルアセトン(Hhfa)を用い,Y^<3+>を含む希土類イオン(RE)の抽出におけるトリス(4-イソプロピルトロポロナト)コバルト(III)(Co(ipt)_3)及び比較のためトリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)(Co(acac)_3)の効果を研究した。 1.トリス(4-イソプロピルトロポロナト)金属(III)の塩基性の評価 ヘプタン中でのFe(ipt)_3と3,5-ジクロロフェノール(DCP)との水素結合錯体の生成定数を決定した。その値はFe(acac)_3よりも大きく,iptキレートの配位酸素原子の塩基性がより高いものと考えられる。またIRスペクトルによりコバルト(III)キレートとDCPの水素結合についても同様の結論を得た。 2.HAとCo(ipt)_3による希土類イオンの協同効果抽出 Htta-ベンゼン系あるいはHhfa-トルエン系にCo(ipt)_3を共存させてREの抽出を行ったところ,特に後者において極めて大きな抽出増大(協同)効果が観察された。抽出平衡解析より,協同効果の原因が有機相中でのRE(A)_3とCo(ipt)_3との1:1付加錯体(複核錯体)の生成によることを明らかにし,その生成定数(β_<s,l>)を決定した。いずれの系においても,β_<s.l>はREのイオン半径の減少に伴って低下した。 3.付加錯体の構造 可視及びIRスペクトルにより,軽REでは主にCo(ipt)_3がRE(A)_3の中心金属に配位結合し,重REではRE(A)_3の配位水への水素結合が示唆された。
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