研究概要 |
溶液試料が流出している注射針の針先に高電圧を印可すると,大気圧下で液体がその先端から静電場噴霧する.この現象をエレクトロスプレーイオン化法(ESI)と呼ぶ.我々はこの方法を利用した質量分析法(ESI-MS)による,迅速・高感度・簡便性を備えたオンライン分析技術を発展させるのが目的である.特に,電解反応生成物及びその反応中間体の検出・同定を目的にし,ESIする針先の上流に電気化学反応用のセルを取り付け,それをESIのインターフェースを通して質量分析計と結合した.本研究では,従来の問題点を克服し,電解セルの性能の向上をはかり,電解反応生成物の迅速.高感度分析を目指した.対極・参照極部分と作用極との間に多孔質ガラス隔壁を設けた超小型三電極式フローセルを開発した.その電解セルの実用性は,[Ru(bpy)_3](PF_6)_2,[Os(bpy)_3](PF_6)_2(bpy=2,2'-bipyridine en=ethylenediamine)の一電子酸化体の検出により確認した.さらに,[Ru(bpy)_2(en)](ClO_4)_2,[Ru(bpy)_2(ed)](ClO_4)_2(en=ethylenediamine,ed=ethylene-d_4-diamine)錯体の電解酸化反応における,不安定で寿命の短い反応中間体であるモノイミン錯体及び酸素付加錯体を検出した.その結果,bpy錯体に較べて自由度の小さいphen錯体では異なる配位子置換反応の可能性が見出された.そこで,[Ru(phen)_2B]^<2+>(phen=1,10-phenanthroline,B=,trimethylenediamine(tn),or butanediamine(bn))のacetonitrile溶液中における光配位子置換反応の研究を行った.その結果,phenとbpy錯体の反応性の違いは,ルテニウム錯体におけるphenとbpy配位子のflexibilityの違いから説明できた.
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