研究概要 |
温帯・熱帯の沿岸域に広く分布するテンジクダイ科魚類は、雄が口内保育を行い、雌が雄の獲得をめぐって競争すること(いわゆる、性役割の逆転)で知られている。また、同科魚類の口内保育雄がかなりの頻度で卵塊を丸飲みすること、そしてこのフィリアルカニバリズムが口内保育中の絶食にともなう著しい生理的状態の低下と対応していることが最近の我々の研究によって明らかになっている。四国宇和海には数種のテンジクダイ科魚類が共存しているが、その生活様式は単独タイプと群れタイプに大別される。両タイプの代表的な種(オオスジイシモチとクロホシイシモチ)において、この生活様式の違いが繁殖期の雌雄の種々の行動様式(性戦略)の種差と対応している。このような生活様式と性戦略の対応がどのような因果関係をもっているのかを探るためには、ある行動をした個体の栄養生理状態を知ることが必須である。たとえば、クロホシイシモチの雌がナワバリを維持するのにどの程度のコストがかかっているのか、あるいは、フィリアルカニバリズムをした雄はそうしなかった雄よりも栄養状態が本当に悪化していたのかどうかなどが明らかにされなければならない。 平成11・12年度のフィールド調査においては,とくにクロホシイシモチの雌のナワバリの機能について詳細な調査を行った。その結果,クロホシイシモチの雌のナワバリが,多くの動物で見られるような配偶者を獲得をする機能ではなくて,産卵時の卵塊の受け渡しの瞬間に起こる卵捕食を回避する機能をもつことが明らかとなった。また幾つかの論文で,テンジクダイ科魚類の口内保育に関わる口腔の形態の雌雄差,繁殖にかかるコストの雌雄差,フィリアルカニバリズム発生頻度の種間差,個体群密度とフィリアルカニバリズム発生頻度の関係,性役割の逆転と潜在的繁殖率の関係について論じた。
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