研究概要 |
本研究で行った理論的検討によって,高地低大気圧には個葉光合成に与える二種類の効果,1:低CO_2分圧による光合成の減少,2:低O_2分圧が1の効果を一部うち消す,が存在することが明らかになった.さらに,2の効果は葉内拡散コンダクタンスに影響されることが示され,葉内拡散コンダククンスが小さいと,2の効果が減少し,低大気圧下での光合成がより抑制されることが示された,これらの理論的予測は,富士山五合目標高2250mに生育する多年生草本植物イタドリを用た実測により妥当性が確認された.また,標高2250mに生育するイタドリと,低地に生育するイタドリを比較した結果,光合成酵素ルビスコの量には違いが無いものの,高地型イタドリは葉内拡散コンダクタンスが小さく,低大気圧による光合成抑制がより強くなっている事が明らかになった. これらの葉形質が,高地型イタドリに遺伝的に固定されているのかどうかを明らかにするため,高地型イタドリを低地環境下の人工気象室で生育させ,幾つかの葉形質の評価を行った.その結果,葉内拡散コンダクタンスが,低地型のイタドリと同程度まで上昇する事が明らかになった,低大気圧による光合成抑制がより激しくなるにもかかわらず,高地に生育しているイタドリの葉内拡散コンダクタンスが低いのは,遺伝的な制約によるのではなく,低大気圧以外の高地環境に対する高地型イタドリの順化反応である事が示唆された. また,高地型イタドリを同じ場所に生育するオンタデに比べた結果,タンパク当たりのルビスコ量が約20%低い一方,活性酸素消去酵素ascorbate peroxide (APX)の活性が,約30%高い事が明らかになった.この,葉内タンパク組成の違いは,オンタデに比べて葉寿命が長いイタドリの生活史と関連している可能性が示唆された.
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