研究概要 |
真核微生物である分裂酵母Schizosaccharomyces pombeの細胞壁形成機構について分子解剖学的な研究を行い、以下の結果を得た。 1)S.pombe細胞からα-1,3-、β-1,3-、β-1,6-グルカンを単離・精製し、^<13>C-NMR法および^<13>C-CP-MAS法により物理化学的性質を解析した。S.pombeのβ-1,6-グルカンはSaccharomyces cerevisiaeやCandida albicansと異なり、高頻度にβ-1,3-分岐した特徴的な構造であることが判明した。 2)1)で精製されたグルカンを用いてα-1,3-グルカンおよびβ-1,6-グルカンに対する抗体の作製に成功した。得られた抗体は各種多糖を固相として用いた酵素免疫測定法(ELISA)により特異性を検討した結果、抗α-1,3-グルカン抗体は高次構造を形成していない抗原に対して、高い反応性を示した。一方、β-1,6-グルカン抗体は、高頻度にβ-1,3-分岐したβ-1,6-グルカンを特異的に認識することが判明した。 3)S.pombe細胞の免疫電子顕微鏡試料作製法として、加圧凍結置換固定法を検討し、0.01%オスミウム酸/アセトンおよび0.1%酢酸ウラニウム/アセトンで置換した試料は、細胞内微細構造が明瞭に観察でき、且つ抗原抗体反応が可能であることが確認された。 4)2)で作製された抗体の反応性の検討を、3)の加圧凍結固定法により作製した試料を用いて行った結果、α-1,3-グルカンは、細胞壁の最外層と細胞膜に接した部位に認められた。一方、高分岐β-1,6-グルカンは、細胞膜に対して垂直方向に配列し、細胞壁を貫通するように局在した。また、隔壁形成部位においては、α-1,3-グルカンは細胞膜の陥入が始まる隔壁形成の初期段階から終了まで、細胞膜に沿って存在した。高分岐β-1,6-グルカンは隔壁形成の初期にはあまり認められなかったが、二次隔壁が形成される段階では隔壁を貫通して局在した。 5)S.pombeプロトプラスト再生系を用いて、アクチン細胞骨格の局在を共焦点レーザー走査顕微鏡で検討した結果、アクチンケーブル、アクチンパッチの三次元的な局在と細胞壁形成への関与が明らかになった。また、細胞壁形成に対するアクチン結合タンパクはトロポミオシンやArp3以外のアクチン結合タンパクが存在する可能性が示唆された。 6)S.pombe野生株およびアクチン点変異株cps8から単離した細胞膜を酵素源とし、UDP-グルコースを基質として、cell free系におけるグルカン生合成を行った結果、両株ともネットワークの形成は認められなかった。この事実から、グルカン・ネットワークの形成にはアクチンを介したシグナル伝達系が必須であると示唆された。
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