研究概要 |
昆虫の交尾行動は,これまで雌では,ホルモンによる交尾受容性や交尾後の行動変化といった観点からの研究が多く,一方雄では,雌を獲得するための交尾戦略といった観点からの研究ばかりで,交尾そのもののメカニズムに関する研究はほとんどなかった。筆者は,雄コオロギが哺乳類に比べても,遜色ない交尾のレパートリーをもち,しかも人為的に精包を放出させうるという利点を生かし,以下のことをあきらかにした。雌雄生殖器の結合後,雄の交接器内部にある機械感覚毛が雌の交尾乳頭によって刺激されると精包の鉤状部を収納する背側嚢が,これを支配するただ1つの運動ニューロンのバースト状の活動によって収縮し,精包の放出がおこる。ついで,3つの交接器運動ニューロンの活動によって腹葉と正中嚢への体液の流入がおこり,これによって両者が膨張し,放出された精包は押し上げられて,雌の産室に挿入される。これで交尾は完了するが,このとき雄の全身の筋緊張がとける。これは,筋電図の観察から証明された。この後,雄は精包準備をした後,約1時間求愛をしない状態に入るが,これをつくっている生殖のタイマーは,局所神経冷却法によって,最終腹部神経節に局在していることを明らかにした。また,このタイマーは,体液性のホルモン物質を介することなく働くことも生体内環流実験で明らかにした。以上の研究成果はきわめてオリジナルの高いものであり,トップジャーナル数編に報告した。
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