研究概要 |
小笠原諸島は本州の南方約1000kmに位置する典型的な大洋島である.小笠原諸島では他の大洋島と同様に固有種の割合が高いことが生物相に関しての特徴であり,維管束植物では約40%が同諸島に固有であると推定されている.このような大洋島での種分化と種内集団の遺伝的変異性を把握するためにキク科アゼトウナ属固有植物3種について核DNAのリボソーム遺伝子のITS領域の塩基配列とマイクロサテライトによる解析をおこなった. ITS領域の塩基配列では種内,個体内共に変異はほとんどなかった.また,ユズリハワダンとヘラナレンは配列の相同性が高く,これまでの研究の結果と一致した.さらにアゼトウナ属(広義)の系統関係についてITS領域の塩基配列を用いて解析を行った.その結果,小笠原固有種3種は単系統であり,他のアゼトウナ属のどの種ともそれほど近縁でないことがあきらかになった. マイクロサテライトマーカーによる解析はタンポポのプライマーを用いて行った.その結果,増幅が確認されたマーカーは、14個のうち10個のマーカーであった.MSTA10,MSTA20B,MSTA64,MSTA78の4つにいては、増幅されなかった.MSTA31,61,72を使用して増幅したDNA産物を、6%尿素ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、バンドパターンを記録したところ,はっきりとした遺伝子座はそれぞれのマーカーで1つが確認され、対立遺伝子はMSTA31で6つ、MSTA61,72で5つずつが確認された.マイクロサテライトによる解析では変異がほとんどなく,アロザイムによる解析と同様な結果になった.これは各固有種の起源が比較的新しく,かつ少数の祖先個体が起源となって種分化を起こしたためと考えられる.
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