研究概要 |
コケ植物の系統学的研究を比較形態学的見地ならびに分子生物学的見地から行った. 比較形態学的研究として,タイ類のケゼニゴケ属の系統について細胞分裂における核の分裂と色素体の分裂の挙動から,単色素体減数分裂(タイ類一般)と複色素体減数分裂(セン類,ツノゴケ類,シダ植物ヒカゲノカズラ類)の接点に位置する系統群を示す結果を得た. 系統的位置が不明確であり,シダ植物との関連も議論されたヌエゴケについて,テルペン類からの化学分類学的解析によりそれがまさしくタイ類に属すること,そしてrbcL遺伝子にもとづく系統解析からこれまでの形態情報からの系統的位置(フタマタゴケ目のフタマタゴケ科あるいはウロコゴケ目のムチゴケ科)と異なり,ウロコゴケ目のツキヌキゴケ科ときわめて関連のある位置を占めることが明らかになった. セン類でその系統的位置がギボウシゴケ科かチヂレゴケ科,ヒナノハイゴケ科のいづれに位置するか議論されているチヂレゴケ属について,シッポゴケ科とも比較をしながら〓歯の組織化学的手法を用いて系統的位置を探った.その結果,ギボウシゴケ属と強く関連し,ヒナノハイゴケ科と結びつかなかった. 更に,コケ植物の系統研究に関連するつぎの項目を含む多数の研究を行った:蘇類とタイ類のスパーオキシドジスムターゼの研究から維管束植物はタイ類よりもセン類とツノゴケ類に類似のSODを持つことを明らかにした.ゼニゴケ科における種分化機構,カガミゴケ属とその近縁分類群における分子系統学的研究,ケゼニゴケ属における精子形成時の色素体とそのDNAの挙動を調査した結果,色素体は精子が完成するまで維持されるが,精子細胞質中の色素体は形を残すものの遺伝物質をもたず,細胞質遺伝に関与しないことを明らかにした.
|