研究概要 |
本研究ではこれまでに興味ある種分化過程が示唆された両生類の寄生虫の内から原虫類と線虫類を選び,DNAの塩基配列解析によって種間の遺伝的距離を調べ,その種分化の過程を解明しようと試みた.原虫Trypanosoma類のDNA解析をTrypanonsoma sp.が寄生したトノサマガエル血液を用いて行い,18SrDNAを解読して,原虫が宿主の血液と混在した状態でも可能であり,大量培養系を確立しなくてもPCR反応の条件を注意して整えれば,原虫が数個体含まれている1〜5μlの血液から充分解析可能であることを示した.今後はこの解析方法を発展させることにより,スライド標本から原虫類のDNA解析を行うことも可能になると期待される.寄生線虫類ではSpiroxys属,Rhabdias属,Cosmocerca属,Cosmocercoides属およびAmphibiocapillaria属についてCO1,ITS2,28SrDNA,5SrDNAの塩基配列を解明した.カエル寄生Spiroxysjaponicaとオオサンショウウオ寄生Spiroxyshanzaki成虫について,日本顎口虫Gnathostoma nipponicumを加えてカエル寄生Hedruris ijimaiを外群として,系統の分岐分析を行った.Rhabdiastokyoensisはイモリ,シリケンイモリ間で塩基配列はほぼ同一,またRhabdiasjaponicaはトノサマガエル,トウキョウダルマガエル,ツチガエル間でほぼ同一であった.Cosmocerca属線虫はニホンアマガエル,トノサマガエル,トウキョウダルマガエル,ツチガエル,シュレーゲルアオガエル間で同一であり,複数属のカエルに共有されていることが塩基配列から示された.一方28SrDNAではCosmocerca属とCosmocercoides属の間に約30塩基の差があり,シリケンイモリ寄生Cosmocercoides tridensとニホンヒキガエル寄生Cosmocercoides pulcherの間には約10塩基の違いが認められた.沖縄産シリケンイモリCynopsensicaudaおよび兵庫県産オオサンショウウオAndrias japonicus寄生のAmphibiocapillariaの18SrDNAを解読したところ,かなりの一致が見られ,同一種であることが支持された.これらの研究過程でSpiroxys hanzakiの生活史を解明し,顎口虫科は発育に4期しかないことを発見した.またオオサンショウウオ寄生Filariacingulaに新属Kamegainemaを提唱し,日本産オオサンショウウオとアメリカオオサンショウウオの寄生線虫相の比較などを行った.
|