研究概要 |
高次系統を解析するためには,現在用いられているより長いDNA塩基配列データが必要であることは明らかである.とはいえ,時間的・金銭的・人的制約からそのような長いDNA塩基配列データを取るのは非常に困難であった.魚類分子系統学におけるこのような問題点は,申請者が新たに開発した手法(Miya and Nishida,1999)により克服された.この手法はロングPCRと180個あまりの魚類汎用プライマーを応用したもので,魚類1種のミトコンドリアゲノム全塩基配列をきわめて短期間に読みとることを可能にした.本研究では,ミトコンドリアゲノムの各遺伝子やそれらをつなげたものが,脊椎動物で最も多様性の高い真骨類の系統解析においてどの程度有用かどうか,モデル系統樹を用いて解析を行った.これまですでに全塩基配列が決定されている5種の真骨類に加えて,新たに3種の真骨類(ギンメダイ,ネッタイユメハダカ,シナノユキマス)のミトコンドリアゲノム全塩基配列を決定した.13個のタンパク質遺伝子から得られた塩基配列を個々に最大節約法で解析したところ,ND5遺伝子を除いてモデル系統樹を復元できなかった.一方,全タンパク質遺伝子データをつなげたところ,コドンの第3座位を除くか塩基配列をアミノ酸配列に翻訳したデータセットでのみモデル系統樹を復元できた.また,22個のtRNAをつなげたデータセットもモデル系統樹を復元できた.各タンパク質遺伝子のモデル系統樹復元パフォーマンスを比較したところ,明らかに遺伝子によりパフォーマンスに差が認められた.さまざまな遺伝子から得られたデータの組み合わせで解析を行った結果,パフォーマンスの良いタンパク質遺伝子いくつかと,22個のtRNAのステム部分から得られた塩基配列をつなげたデータが最もよくモデル系統樹を復元することが明らかになった.以上の結果はUse of mitogenomic information in teleostean molecular phylogenetics : A tree-based exploration under the maximum-parsimony optimality criterionと題する論文でMolecular Phylogenetics and Evolution誌に発表した(Miya and Nishida,2000).
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