20〜80歳代の男女(81名、79名)の通常歩行及び速い歩行のビデオ撮影を行い、ストライド長、歩行周期、歩行速度、関節角度について分析した。その結果、ストライド長と歩行速度に関しては、男女とも全ての歩行速度で65歳以上の年齢集団で減少が見られ、加齢とともにさらに減少する傾向が見られた。歩行周期には加齢による変化はほとんど見られなかった。したがって、歩行速度の減少はストライド長の減少によるためである。また、歩行姿勢は加齢とともに体幹が前傾し、中腰傾向となり、関節可動域が狭くなっていくが、下肢の運動の継起はあまり変化しないということがわかった。また同じ被験者において歩行時の床反力の分析も行った。これらの分析から、加齢による歩行の変化は神経系の老化によるものでなく筋力と筋腱の弾性の低下によるものであることが示唆された。さらに階段昇降時の下肢の関節角度を50〜70歳代の男女(38名、107名)について調べた結果、昇段時においては、男性では加齢による変化はみられなかったが、女性では加齢によって下肢の伸筋群の短縮性収縮における筋力の衰えを示す現象が観察された。降段時では、男性、女性の双方において、加齢によって膝関節の運動域が大きくなった。また、男性の場合、50歳代では高齢者と異なり、膝が完全に伸展せずに屈曲した状態で階段を降りていた。これは、膝の伸筋である大腿四頭筋の筋力が十分にあるということを意味する。速度に関しては、女性において昇段時と同様に、高齢者ほど遅く、これは昇段時の短縮性収縮における筋力の衰えとは別に、伸張性収縮の筋力とコントロールの衰えが直接関与している可能性があるが、転倒の危険に対する恐怖心といった心理的要因の関与も無視できない。
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