研究概要 |
1.透過電子顕微鏡(TEM)対物レンズ用薄膜レンズの設計と製作 これまでの実験により,薄膜レンズの円孔電極と薄膜との間にかかる電界が120kV/mmを超えると,静電力により薄膜が破損することが分かっていた.そこで,この値より低い電界で球面収差補正が実現できる条件を計算機シミュレーションにより調べた.その結果,薄膜レンズを対物レンズポールピースのギャップ中心より3.6mm後方に置けばよいことが分かった.このとき,円孔電極と薄膜との距離を0.05mmとして,球面収差係数が零となる補正電圧は550Vである. この結果に基づいて,改良型薄膜レンズの設計・製作を行った.ギャップ長8mmの対物レンズポールピースの下極直上に薄膜レンズを配置するために,薄膜レンズホルダーの厚さを従来の2.0mmから1.7mmに薄くし,ねじ止め方式からはめ合わせ方式に改めるなどの工夫をした. 2.薄膜レンズを用いた結晶格子像の観察 作製した薄膜レンズを商用のTEMに組み込み,加速電圧200kVで金微粒子の観察を行った.一般に,TEMの最高の分解能は球面収差があるために大きな焦点ずらし量のときにしか得られないが,このときフレネル縞による強いコントラスト異常が生ずる.薄膜レンズに300Vの電圧を加えて観察を行ったところ,フレネル縞の弱いジャスト・フォーカス付近で金の(111)格子縞を観察することができ,球面収差低減の効果が確かめられた. 3.球面収差補正特性の測定 入射電子線を傾斜させたときの結晶微粒子の明視野像と暗視野像のずれから球面収差係数と焦点ずらし量を同時に求める独自の手法を用い,薄膜レンズ電圧に対する球面収差係数を測定した.測定結果から,同じ薄膜レンズ電圧で比較したとき,改良型薄膜レンズは従来型と比べて小さい球面収差係数を実現できることが分かった.
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