研究概要 |
試料粉体層厚熱変化を測定する装置を開発し,試料層厚熱変化により生じるTSC誤差を修正する方法を提案した.また,試料高分子粉体の特性に応じた2種類の試料容器を提案した.以上の,試料成形法,試料容器,スペクトル修正法を用いた,高分子粉体試料に対する開回路熱刺激電流スペクトル測定法を提案し,以下の系に応用した. (1)静電粉体塗装用塗料 ブロキング(粉体粒子の凝集)防止の観点から,静電粉体塗装用塗料は通常35℃以下の低温で輸送・保管される.高温保管の粉体塗料のTSCスペクトルを調べると,ブロッキング発生以前に電荷安定性低下が現れることを確認した.また,粉体塗料の熱硬化反応の進行状況をTSCで評価できることを示した. (2)複写機トナー 電荷制御剤の一つである4級アンモニューム塩結晶の電気的特性と結晶構造を調べた.その結果,この電荷制御剤は162℃で非可逆的な結晶転移を起し,電気電導性が著しく増大することを見いだした.また,この電荷制御剤を添加した疑似トナーのTSCスペクトルを測定した.その結果,コロナ帯電より接触・摩擦帯電に対して,より有効に電荷制御剤が作用することが確認された. 複写機のトナー・キャリヤ間の接触・摩擦帯電特性を評価する「キャリヤ落下法」を提案した.提案した方法では,トナー・キャリヤ間帯電特性が,電気的に孤立した場合と,孤立していない場合の両方の条件のもとで,調べることが可能である.また,提案した評価法は,同一キャリヤの長時間使用で問題となる,キャリヤ帯電サイト機能回復機構解明に有効であることがわかった. (3)低温粉砕ポリプロピレン ポリプロピレン粉体のTSCスペクトルには,フィルム試料のスペクトルとは著しく異なり,110℃付近にピークをもつブロードなバンドが一つだけ観測された.種々の温度で熱処理した試料粉体のTSCスペクトルから,このバンドは,粉砕過程で結晶中に導入された欠陥によるものであることが明らかにされた.また,150℃以上の高温熱処理試料では,非可逆的な結晶転移(α_1-α_2)が生じていることが,TSCスペクトルから確認できた.
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