研究概要 |
表題中の「計算の品質制御」とは,数値誤差評価から一歩進んで,許容誤差内の値をなるべく少ない手間で計算するように計算を制御することである.単に,計算結果の精度を高めるだけであれば,多倍長の計算を実行すればよい.しかし,計算結果の精度は個々の演算の精度とは異なる.この研究の目的は,個々の演算の精度を任意に高めたり低めたりできることを前提し,個々の演算の精度を制御して,所望の精度の計算結果を得る方法を与えることである. 自動微分と区間演算を基礎技術として用いて,つぎの二つの方針を定めた.第1の方針は,個々の演算結果の最終結果に体する影響の大きいものについては,その演算の精度を個別に高めて,その演算で局所的に発生する誤差の大きさを小さくすること,逆に,影響の小さいものについてはその演算の精度を個別に低めて計算の手間を減らすことである.第2の方針は,影響の大小を調べる感度解析を行うための基礎技術である「高速自動微分」を実施する上で必要となる記憶領域を削減するアルゴリズムを実装することである. 第1の成果は,最終結果に大きな影響を与える演算の精度を自動的に高めて,繰り返し計算を行うシステムである.これは高速自動微分による誤差推定の枠組みと,多倍長浮動小数点計算とを組み合わせたものである.第2の成果は,領域削減アルゴリズムの実装である.UNIXオペレーティングシステムの上で,プロセスを生成するforkシステムコールと,プロセスの同期をとるセマフォを使用した. これらの成果の他に,このシステムの適応分野としてJacobi-Davidson法と呼ばれる固有値計算手法についても並行して研究中である.また,このシステムにより,偏微分方程式の境界値問題の誤差解析や計算幾何学の問題に対する適用が可能となったので,その数値実験は今後の課題である.
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