研究概要 |
sp^2のグラファイト構造(3配位),sp^3のダイヤモンド構造(4配位),アモルファス・カーボン,そして炭化水素系のポリマーといった混成構造体であるダイヤモンド・ライク・カーボン(以降DLCと称する)薄膜の強度発現機構の解明のために,変形挙動の解析を行った.DLC膜をモデル化するためのネットワークモデルを3種類の作成方法により構築し,従来の実験データの比較からランダムウォーク法により構築する手法が最も適していること確認した.そして,応力一定の分子動力学法(MD)により,膜自身に単軸引張り変形を加え,ネットワーク中でのsp^2-sp^3といった配位数の変化を伴う構造遷移に関するパターンの分類を行った.DLC膜の変形は,3原子間のBending,そして4原子間のTosionの変形機構が支配的であることがわかり,従来よりよく用いられているTersoffポテンシャルの問題点を指摘した.そこで,より厳密な相互作用のモデル化を可能とする,強結合近似分子動力学法(Tight binding MD;TB-MD)を用いて,DLC膜のクラスタモデルによる強度評価のための解析を行った.その結果,強度低下を導く結合形態の組み合わせの同定を行い,変形に大きく寄与するねじり基本変形様式を明確にした.また,初期構造においても,実験結果と良好な一致を示すsp^3比を得ることができた.TB-MDは実空間でも解析できる第一原理計算手法であり,非周期構造の問題を直接的に解析することが可能である.しかしながら,そのために大規模シミュレーションが必要不可欠になり,オーダーN(O(N))の手法を導入した.第一原理計算手法では実行できない大規模シミュレーションを行い,局所環境依存性を考慮した原子間相互作用がクラスタ構造体のような不均質な構造体には必要不可欠であることを明らかにした.
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