研究概要 |
本研究では,大気の流れが本来的に有している大規模な乱れが,森林キャノピー層の防風機能に及ぼす流体力学的影響を,大型乱流風洞実験及び流れの数値シミュレーションの二つの手法により解明する. 1.大気の乱れの効果を解析する第一段階として,大型乱流風洞中に主流速度が流れ場全体で空間的には一様に時間的には調和振動する流れを作り出し,この流れの中に置かれた森林模型下流域の乱れ度,レイノルズ応力などの乱流特性量が計測された.(1)キャノピー樹冠部下流域では,振動流と一様流とで乱れ強さに大きな相違はない.(2)キャノピー樹冠部の上部と下部の時間平均速度が急勾配を示す範囲では,振動流乱れ度は大きな値を取る.(3)レイノルズ応力は,振動流では樹冠部上辺で特に大きな値となる. 2.次に,より現実の自然風の流れに近づけるために,大気境界層内の速度分布を直線型せん断流で近似化し,最大20%程度の大きな乱れを含む直線型せん断流(以下,強乱流れと記す)を乱流風洞内に生成した.この強乱流れの中にキャノピー模型が置かれているとき,流れ場の三次元速度変動が計則された.特に,乱れの少ない直線型せん断流(以下,低乱流れと記す)中の分布と比較した.(1)森林キャノピーの樹高の2.5倍より下流域においては,強乱流れ中の防風効果は,低乱流れの場合よりも弱められる.(2)森林キャノピー樹冠部下流域では,3方向乱れ強さはほぼ同程度となっている. 3.森林キャノピーまわりの流れ場が,数値的に解析された.樹冠部の振動を,互いにばねとダンパーで連結された質点としての樹冠要素の運動で表現し,樹冠要素の働く流体力と流れが受ける反力とをリンクさせる手法により,森林キャノピーまわりの乱流構造の特性量が計算された.(1)時間平均速度,乱れ強さ,レイノルズ応力などの分布は,風洞実験の結果を良く再現している.(2)広範囲に計算領域を設定することにより,実験では困難な森林キャノピー模型の十分下流域における流れの特長が明らかにされた.特に,森林キャノピー上部領域に発達するはく離せん断層が,樹高の5倍程度の下流において地面に再付着し,その再付着点近傍では,強い乱れとなっている.
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