研究概要 |
著者らは,これまで工学的な観点から昆虫や鳥類の移動機構,特に,優れた飛行機能に着目し,さまざまな種類の昆虫の翅や鳥類の羽に関して航空力学的な研究を進めてきた。それらの研究は比較的巨視的な観点から力学を考察したものであった。しかし,走査型電子顕微鏡観察を続けてきた結果,微視的観点から生物の飛翔器官に共通する不思議な形態構造を見い出した。それらは,生物の種類やサイズによって微妙に異なり,飛行機構と密接に関連して高次の領域で生物の飛行機能を大きく高めているように推察された。そこで当該研究の目的は以上の状況を踏まえて,ミクロな構造組織体がマクロな空気力学的な法則および材料力学的な法則とどのように関連しているかを調べ,生物の持っている流動制御のメカニズムを明らかにすることである。 平成11年度の実施においては電子顕微鏡や3次元形状計測装置によって生物の飛翔器官としての昆虫の翅や鳥の翼を構成する風切り羽を丁寧に調べた。さらに,昆虫の翅や風切り羽を風洞にセットし,空力弾性特性などを調べ材料力学的観点から飛翔器官の構成を調べた。,その結果,飛翔器官の3次元的な構造が定量的に得られ,翅表面の形状から大きな揚力を発生する場所などが明らかとなった。平成12年度の実施においては,トンボの前翅を取りあげ精密3次元曲面形状計測装置によって翅表面の凹凸をサブミクロンのオーダーで調べ,さらに,そのような凹凸を持つシオカラトンボの前翅のまわりの流れ場を3次元PIV計測システムを用いて計測し,3次元的に速度ベクトルの分布,渦度,流線などを求めた。それら昆虫の飛翔器官における実験結果を鳥類(セキセイインコ)の風切り羽などの特性と比較して昆虫の翅と鳥類の羽の持つ類似性と相違について比較検討を行い,航空力学的・材料力学的な観点から流動制御のメカニズムを考察した。
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