研究概要 |
大気中のCO_2濃度の増加を抑制するために火力発電所などのCO_2大量発生源から回収した液体CO_2を深海底窪地に隔離しようとする方策は,深海底の超高圧下でCO_2ハイドレートと呼ばれる固体水和物が液体CO_2と海水の界面に膜状に形成され,CO_2が海洋中に溶解することを抑制し,海洋環境に与える影響を大きく低減する効果を有していると考えられている.しかし,液体CO_2と海水の界面に存在する固体水和物を通してCO_2が海水へ溶解拡散する物質移動機構については不明で,特にこのことを固体水和物の多孔質構造との関連において明らかにすることが基礎的にも,またCO_2を安定に隔離し,貯留する制御指針を得るためにも重要であると考えられる.CO_2ハイドレートは,水分子より構成されたサッカーボール状のケージ(かご)の中にCO_2分子が取り込まれた基本構造をしており,これらのサッカーボール状のケージが集合して固体の超微粒子群を形成し,超微粒子群のすき間をフリーな水分子ならびにCO_2分子が運動していることがCO_2ハイドレート内での物質移動の担い手になっていると考えられる.本研究はこのようなCO_2ハイドレートの特異な多孔質の中の物質移動現象を,磁気共鳴3次元画像計測と格子ボルツマンシミュレーションにより明らかにした. 磁気共鳴イメージング法は,磁場中に置かれた水分子中の水素原子核の固有振動数と等しい電磁波を照射することによって生ずる共鳴現象を利用して,水分子の存在濃度を10μmの分解能で2次元画像として得ることが可能な装置であり,撮影断面をトラバースし,画像処理をすることにより,3次元画像を得ることができる.また,固体と液体では,緩和時間が異なることを利用して,これらを区別してイメージングを行うことができるため,超微粒子群(固体)を構成している水分子とフリーな液体状態の水分子が共存しているCO_2ハイドレートの特異な構造を解明することが可能となる.また,照射電磁波を共振周波数にロックすることにより,緩和時間の情報から水分子およびCO_2分子の拡散流束を直接計測することができる.これらの計測により得られる結果を統合することにより,CO_2ハイドレートの構造とこれに密接に関連する物質移動現象を明らかにする. さらに,格子ボルツマンシミュレーションにおいて,多孔質内の流動・物質移動を計算するのに必要な複雑な境界条件の設定する手法を開発し,さらに多孔質構造が流動現象にどのような影響をおよぼすのか,これらの相互作用を明らかにした.
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