研究概要 |
従来のセラミック碍子に取り代わって,今後飛躍的に普及する可能性のあるポリマー碍子は,外皮材に高分子(ゴム)を用いた軽量な碍子である.高分子を屋外高電圧絶縁に適用する場合,トラッキングという問題を解決せねばならない.我々の研究によりポリマー碍子の外皮材にはシリコーンゴムが最適であるということが分かってきた.シリコーンゴムは主鎖にケイ素-酸素(シロキサン)結合を持ち,側鎖にメチル基を持つ無機系高分子である.そのため,主鎖に炭素-炭素結合を持つ炭化水素系ゴムを主対象として扱かっていた現在までの研究結果を,シリコーンゴムにそのまま適用することはできない. 研究室内で実際の屋外より苛酷な条件で加速的にシリコーンゴムにトラッキングを発生させた.そして,その発生過程で生じる固体残さやガスを収集し,機器分析手法により成分同定を行い,化学的な面からそのメカニズムの解明を目指した.同時にトラッキングが起こる前後の漏れ電流をモニタリングする装置を構築し,漏れ電流信号を高速フーリエ変換,ディジタルフィルタ,ウェーブレット変換といった信号処理技術により解析し,電気工学的な面からもシリコーンゴムのトラッキングメカニズムの解明も目指した.周囲の環境ストレス(紫外線,酸性雨,熱,オゾン,吸水)によりトラッキングの発生性状が変化することから,環境ストレスがシリコーンゴムのトラッキングに及ぼす影響についても詳細な検討を行った.シリコーンゴムはトラッキングを起こす際に形成させる炭化導電路にSiO_2,SiCなどの電気不導体を多く生成し,電気伝導に寄与する炭素の含量が数重量%と少量しか生成させないなど,従来の炭化水素系高分子と異なったトラッキング形態を示すことが分かった.化学分析の結果,分子量の低い化学的に不安定なシリコーンオリゴマという物質がトラッキング破壊現象に密接に関係していることを示した.この知見を基に,シリコーンオリゴマを増量させる環境ストレスがシリコーンゴムの耐トラッキング性を低下させることを明らかにした.さらに、新規導入した光スペクトルアナライザを用いて,破壊時の発生する光のスペククルを分析した.トラッキング進展時に物質の燃焼に起因する光が発生していることが確認された.最表面部では外気の酸素により燃焼が生じ,外気の酸素が供給されにくいトラック内部でその燃焼熱で無定型炭素が生成されていると推測し,無定型炭素の生成が少量でも電気絶縁破壊が起こるモデルを提案した.
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