研究概要 |
真空中で高電圧を扱う機器で絶縁物として広く使用されているアルミナについて,機器の小型・高性能化を図る上で障害となっている沿面放電を誘発する原因となっている電子放出現象を,光電子放出顕微鏡により観測した.アルミナ試料に真空紫外光を照射し,光電効果により放出される光電子を静電レンズ系により集束し,電子放出点を拡大して観測した.照射真空紫外光の最大エネルギーは11eVであり,その光路にはフィルタが設けられ,照射エネルギーが選択できるようになっている. 得られた光電子放出像から,アルミナ表面上の電子放出点は,真空紫外光照射領域の全面にわたって存在しているのではなく,数μm以下の局在した複数の領域(点)であることが明らかにされた.また,これらの電子放出点は,電子放出・放出停止・電子放出を繰り返し,連続的に電子を放出しているのではないことも明らかにされた.これらの電子放出特性は,光照射領域すべてにわたり連続的に電子を放出する金属の場合の光電子放出特性とは明らかに異なっているものである.さらに,照射光のエネルギーを,フィルタを用いて9eV(アルミナのバンドギャップ)以下とした場合でも,光電子放出が確認された.このことから,バンドギャップ内に,結晶格子欠陥等の不完全性による電子のトラップ準位が形成されていることも確認された. 今後,このような金属からの光電子放出とは異なる絶縁物からの電子放出特性の原因を,絶縁物の帯電,及び局在している点の物性(存在する原子h,エネルギー状態等)から,明らかにすることが課題として明確化された.
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