研究概要 |
本研究の目的は,ロボットハンドの指先と作業対象物体との接触に伴う動的な振動を用いて接触状態を認識するセンサを開発し,その認識情報に基づいてロボットの指を制御する手法を開発することである.研究成果は触覚センサの開発とロボットの指の制御手法の二つに分けられる. (1)振動検出型触覚センサの開発 ロボットの指先が作業対象物体と接触,あるいは表面を滑ると振動が発生する.その信号をロボットの指先に内蔵した圧電性を持つ高分子膜(PVDF)により検出する触覚センサを開発した.検出される信号は接触状態に応じて過渡応答や周波数成分に特徴が現れる.滑りに伴う振動は周波数スペクトル上に明確なピークのないホワイトノイズ的な信号であり,滑り速度や接触力にはあまり依存しない.また滑りは滑り出しの瞬間を捉えることが重要である.本研究では,一般的な周波数領域のフィルタリングではなく,設定したウィンドウ内の波形のピーク数で判定するアルゴリズムを開発した.この手法によって,滑り出しのわずかな振動を捉えることに成功し,物体の安定な操りに応用できることを示した. (2)ロボットハンドによる物体の操り 本研究では2本の指を持つロボットハンドにより卓上の物体を操る動作を対象とした.この動作は一般的な操りに共通する様々な制御の要素が含まれている.特に重要な着眼点は,指先に加わる力は能動的に制御できる要素と反作用として受動的に決定されてしまう要素がある,ということである.一般的な動作計画においては能動的な要素を力学解析によって求めることが多いが,その結果通りに実際にロボットの指を動かすことは信頼性が極めて低い.本研究では力と滑りのセンサ情報に基づき指先に加わっている力とその方向を指の微小な動きに関連させて推定するアルゴリズムを開発した.この新たな手法により,例えば物体を支えていた2本の指の内一方を物体から離すという動作を安定して実現することが可能となった.そのほか数種類の基本的な動作についてセンサ情報に基づいたセンシング動作と制御手法を提案し,卓上の物体を2本の指で連続的に転がすという操り動作を実現した.
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