研究概要 |
後方伝搬リトフ近似を基本とした修正線形化逆散乱解析法により,音速と減衰の組織定量CT画像の実現を図った。本研究目的を実現する際の第1の問題は,生体軟組織における減衰コントラスト(1.4%)は弱散乱近似の条件を満足する程度に値が小さいのに対して、音速コントラスト(±10%程度)は後方伝搬リトフ近似の近似可能な範囲を越えてしまう。その弱散乱近似誤差による画像劣化は減衰画像にクロストークして現れる性質があり,音速画像に比べて減衰画像が精度よく再現できない問題を生じる。第2の問題は,生体組織からの散乱波は,非常に小さな減衰信号成分が,大きな音速信号成分に重畳する状況にあるため,減衰信号成分は測定雑音(エッジ波の混入など)に埋もれてしまい,このことによっても減衰画像の再現が困難になることである。(1)修正線形化近似法の導入:上記の第1の問題に対処するための方法として,減衰画像から弱散乱近似誤差成分を取り除くための,順散乱と逆散乱の計算を繰り返えす修正線形化近似法を考案しその評価試験を行った。その結果,生体組織で要求される近弱散乱領域(10%の音速コントラスト変動)において,音速と減衰の両画像を精度良く再現することが可能になった。(2)円弧上データ観測法の導入:従来の直線上観測に代わって,円弧上で透過散乱波を観測することによって,(1)アレイ固定配置が可能(機械的回転走査が不要),(2)観測データ点数の削減(データ収集時間の高速化),(3)音源からのエッジ波の混入回避(測定精度向上),(4)雑音の混入に強い,さらに平滑化フィルタによる雑音除去が可能,の利点が生まれる。その円弧上観測の半径と角度を最適値に設定することにより,上記の第2の問題点がかなり解消され,S/N比の悪い実環境下での観測データを用いた場合でも,音速画像同様に良好な減衰画像が再現可能になることを検証した。
|