研究概要 |
本年は,栄養塩類の流出解析において、負荷-流量図(L-Q図),濃度-流量(C-Q図)を用いる方法を新たに導入した。これにより,これまで判然としなかった非特定汚染源特に水田,畑などの農耕地からの負荷流出を明確に定量化すると共に人由来の汚濁負荷を明確に分離することが可能となった。NO_3-Nについては,雨水の流出過程(runoff process)で水田や畑地の土壌から溶脱され,河川水中に含まれるという水質形成機構の重要性が明らかにされた。NH_4-NとPO_4-Pにも同様な水質形成機構は存在するものの,これらについては汚染源(家庭など)からの流路あるいは河道への直接的な汚濁(未処理の雑排水など)の流入過程が実際の負荷量の主要な部分を占めることが推定された。これらの水質形成機構は、GISデータに基づく土地利用形態集計結果と水質濃度との比較検討結果にも矛盾しないものであった。 以上の検討結果を遠賀川中流域地点での濃度変動幅と( )内に示す雨水の流出過程での非特定汚染源(農耕地)からの流出分として評価された濃度で表示すると,NO_3-N濃度は1〜1.5mg/l(0.9mg/l),PO_4-P濃度は0.025〜0.08mg/l(0.025mg/l),NH_4-N濃度は0〜1mg/l(0.2mg/l)となった。NO_3-Nでは,雨水流出過程の濃度寄与が大きいことが分かる。また,0.025mg/lというPO_4-P濃度は,NH_4-NやNO_3-Nに比較すれば低濃度であるが、環境基準の湖沼-イ表-類型I(全リン0.005mg/l)や類型II(全リン0.01mg/l)に比較すれば高い濃度であり,藻類発生の抑制限界濃度を下回ってはいない。この意味において,雨水の流出過程におけるPO_4-Pの水質形成は,無視し得ないものと言える。NO_3N濃度0.9mg/lとPO_4-P濃度0.025mg/lは,下流の河口堰湛水域での藻類増殖に十分な濃度であり、非特定汚染源から不可避的に流出することから流域の水質管理上の大きな課題であることが突き止められた。
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