研究概要 |
施設における移乗及び移動介護環境の改善を目的に,適正な介護寸法に関するアンケート調査と滞留時間や移動動線に関する計測を実施した。 初年度は入居者50名程度の中規模特別養護老人ホームでの寮母全員(女性18名,男性2名)を対象に,介護場所別による移乗及び移動介護に伴う介護空間,身体負担,安全性及び介護機器性能について明らかにした。当該施設での移動は車いすを基本とした動作が多くなるために,移動や移乗介護のしにくさに関する申告は出入り口幅がもっとも多く,一般浴室,汚物処理室,便所などで幅員の狭さが指摘された。また,食堂では食事用いすにかわって車いす乗車のままで食事がとれる食堂空間を必要とした。 第二年度には、同一施設内において赤外線ロケーションシステムにより,人や物の移動と所在空間の関係を時系列的に捉え,安全性が高く効率的で,移動負担などの少ない施設内環境条件について検討した。送信機の携帯対象は寝たきりを除く入居者全員、寮母全員及び移動用の介護機器の合計68台とした。受信機の設置場所は全居室,廊下、入居者用便所、食堂周辺,脱衣室・浴室,汚物処理室,リネン室,パントリー室、寮母室の合計30ヶ所とした。介護者や移動機器は施設内配置や入居者の自立程度などが、入居者では普段利用している移動機器や自立程度などの違いにより滞留期間や移動頻度には差がうかがえた。車いす利用者の移動は自室と食堂をつなぐ空間に限局されやすい傾向にあった。 今後の施設居住者の身体機能水準を考慮すると,車いすによる移動はいっそうの増加が予想されることから,福祉機器による移動寸法を前提とした施設空間の設計が必要とされる。
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