研究概要 |
Ni_3Al,Ni_3GaおよびNi_3Geの熱力学的性質を種々の実験により調べ,得られた結果に基づいて点欠陥の濃度を評価し,拡散のミクロなメカニズムを考察した.まずNi_3Alについては,Alの一部をFeで置換したNi_3(Al,Fe)の規則-不規則転移温度を電気抵抗測定により決定し,Fe濃度をゼロに外挿してNi_3Alの仮想的な規則-不規則転移温度を1721±34Kと評価した.この値は以前に熱力学的活量の実験データとMonte-Carloシミュレーションの結果から得た値(1680-1740K)と合致している.Ni_3Alにおける拡散はNi,Alいずれも主にNi原子の副格子内の空孔機構によるとするモデル(α副格子空孔機構)を以前提案し,NiとAlの拡散係数の温度依存性・組成依存性はこの機構により説明できることを示した.その議論においては有効相互作用エネルギーの値が重要な位置を占めるが,今回求めた転移温度の値はそれと物理的意味において等価であり,拡散機構の妥当性が裏づけられた.Ni_3GaおよびNi_3Geについては,固体電解質を用いた起電力法により成分元素の熱力学的活量を測定した.Ni_3Gaについては,活量の組成依存性から原子間相互作用エネルギーの値が0.101±0.002eVと求められた.この値に基づいて点欠陥の濃度を理論的に評価し,拡散機構を考察した.これまで得られているトレーサー拡散や化学拡散のデータはα副格子空孔機構で首尾一貫して説明できる.Ni_3Geについては今回行った活量測定の方法に原理的な問題があることがわかった.それを解決するにはNi-Ge-O三元系の状態図の詳細を明らかにする必要があり,今後の課題である.相互作用エネルギーの値を実験から得ることはできなかったが,0.15eV程度と仮定すると,この物質における拡散も他の二つの化合物と同様にα副格子空孔機構で説明することは可能である.
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