研究概要 |
6061ベース合金および0.5%Fe,0.5%Si,0.6%Mgを単独で過剰に含む合金,さらに,0.5%Feと0.5%Siをともに過剰に含む合金,および0.5%Feと0.6%Mgをともに過剰に含む合金,計6種類の6061合金のT6処理材について,時効析出に対するこれら過剰添加元素の影響を調べた.手法としては,透過電子顕微鏡(TEM)観察および比熱測定,電気比抵抗測定を主とした. これら合金には,寸法で分類して3種類の析出物または晶出物が形成されていた.すなわち,1〜5μmの晶出物,0.1〜0.3μmの析出物(析出物との区別のため,分散相と呼ぶ),および10nm以下の析出物(これを析出物と呼ぶ)である.これらのうち,析出物は,Mg-Si系の中間相β′またはβ″でああり,これらについては微細すぎるため,TEM観察/分析の対象にせず,後述の比熱,比抵抗での結果に拠ることにした.晶出物については,過剰添加合金で量が増加することが判ったので,合金組成との関連を明らかにするために,カーボンレプリカとして抽出し,TEM-EDX定量分析を行った.分散相についても同様な手法を応用した. この手法は,非水溶媒系電解液を用いた定電位電解により,母相を選択的に溶解し,析出物,晶出物を残し,それを剥ぎ取ってカーボンレプリカとするものであり,本研究代表者が鉄鋼材料に初めて適用したものであり,アルミニウム合金へは,初めて試みられた. Mg過剰合金以外では,晶出物は概略70〜75%Al,10〜15%,10〜15%Fe(at%)からなるα-AlFeSiであった.Mg過剰合金では,Siに富むSi-Mg系非晶質晶出物が見られた. 分散相の組成は,過剰添加元素の影響を受けて変化し,SiおよびMg単独添加合金では,40〜50%Al,1〜20%(Mn,Cr),10〜20%Feの組成となり,Fe単独添加および(Fe+Si),(Fe+Mg)添加合金では,70%Al,5〜10%Feの組成となった. 溶体化処理を施した試料について,比熱対温度曲線の測定および比抵抗対温度曲線の測定を行った結果,いずれの合金においても,室温〜350K付近で,G.P.I,G.P,IIゾーンが形成され,450〜600Kでβ″,β′,βが析出することが判った.Mg過剰合金では,それらよりも高温で別の析出物が形成されたが,6000系合金において硬化に寄与するβ″,β′などについては,過剰添加元素の影響は見られなかった.引張強度および伸びについても別途調べた結果,上記組成範囲の過剰添加合金においてをはJIS規格を満足することが判った. 析出相に不純物添加の影響が無く,分散相および晶出相にFeが含まれることから,アルミニウム合金のリサイクルの際に混入するFeは,これら第二,第三相に取り込まれて低減し,機械的特性を劣化させなかったと考えられる.これを実際に成分調整として行うためには,析出硬化に寄与するSi量をSi^*で表し,Si^*=Si-2/3(Fe-0.03)(at%)を目安にしてSi量を決めることが必要であり,それにより,強度を損なうことなく6000系合金のリサイクルを行うことができると結論された.
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