研究概要 |
本研究では,大型で良質の強誘電体単結晶の結晶育成を行うために,専用の高温電気炉を設計・試作した.設計した電気炉の仕様は,通常温度1500℃(最高温度1550℃),電気炉内均熱空間(坩堝搭載位置)150×150×150Hmm,プログラム式温度制御機能付きのものである.本電気炉では市販の電気炉より坩堝の設置面積が大きく,長時間の使用にも耐える仕様でかつ電気炉内の温度制御を市販のものよりパソコンを使ってやり易くした.また長時間の使用で異常が発生した場合のことも考慮し,安全性を充分考慮した試作となっている.本研究では,試作した電気炉を使用して大型で良質のリラクサー型強誘電体単結晶の育成技術の確立を目指して結晶育成に取組んだ.結晶育成法は,PbOを融剤とするFlux法により行った.育成した試料は,リラクサー型強誘電体の一つであるPb(Zn_<1/3>Nb_<2/3>)O3にPbTiO_3を比率xを変えて固溶していった(1-x)Pb(Zn_<1/3>Nb_<2/3>)O_3-xPbTiO_3および同様にPb(Mn_<1/3>Nb_<2/3>)O_3にPbTiO_3を固溶していった(1-x)Pb(Mn_<1/3>Nb_<2/3>)O_3-xPbTiO_3である.Flux法では,使用するFluxの種類や容量,坩堝の温度制御が結晶のでき方に大きく反映されるので,こうした点に注意を払い,原料の組成および温度制御パターンをいろいろと変えて結晶育成に取組んだ.単結晶育成実験では,炉内の温度を2箇所で測定してプログラム調節計にフィードバックして温度制御を行い,また育成実験毎に結晶の組成成分比率をいろいろと変えて,試料育成の過程において出現する強誘電性の育成条件による差異を調べた.PMN-xPTでは,微結晶しか育成できずよい結晶育成ができなかったため,PZN-xPTの結晶育成に焦点を絞って行った.PZN-xPTの結晶育成では,室温から3時間で1180℃まで加熱し,10時間ほど保持した後,-2℃/hour程度で850℃まで降温することにより,かなり良質の小さな単結晶が百個ほど育成できた.大きいものは,3×3×2.5mm^3程度の結晶でX線回折実験より,ペロブスカイト構造をしていることが確認され,また誘電率測定実験で比誘電率が約15000-20000程度であることが確かめられた. 今回の研究で得られた知見として,大型で良質の結晶を作るためには,Pt坩堝は大型のものを使用し,Pt坩堝内には多くの材料粉体を入れて,Pt蓋でしっかりと密閉してFluxのPbO蒸気が洩れないようにすることと,育成に適した温度制御パターンが極めて重要であることが分かった.また,結晶成長の始まりとなる核生成をうまく制御しないと,坩堝中に多数の種結晶ができて,それらが坩堝の中心方向に成長し,その結果数多くの小さな単結晶が生じてしまい,大きく成長することが難しいことが分かった.今後は,更に電気炉の温度制御パターンの改良を続け,大型で良質の単結晶育成技術の確立ができるように研究を進める予定である.
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