研究概要 |
ゼオライト,シリカ,活性炭などの多孔体はナノオーダの細孔を有するが,ナノ制限空間では「相図」に相当する基礎的情報すら未確立である.本研究では,分子シミュレーションと原子間力顕微鏡(AFM)によりナノ空間内液体の相挙動特性に関する直接的知見を得るとともに,分子集団が「感じる」圧力の観点からの,ナノ空間内相挙動の体系化とモデル化を目指して研究を遂行し,以下の研究成果を得た. 1.分子シミュレーション 代表者が開発した独創的MD手法(Miyahara et al.,J.Chem.Phys.,1997)を活用し,固体表面相互作用強度と分子集団の密度・圧力との因果関係を主眼に,種々の系でのシミュレーションをパーソナルスーパーコンピュータで行い,気液および固液間の相転移挙動を分子レベルで詳細に観測した. 2. 実験的検討 凝固点が常温付近にある有機液体を対象に,制限空間内の相転移現象を直接的に切り出すべく,以下のような独創的実験手法を確立した.AFM装置(現有)に温度制御オプションを組み,またできるだけグラファイト化度の高いカーボン微粒子(粒子径5〜10ミクロン)をAFMのカンチレバーに接着し,コロイドプローブを作成することに成功した.劈開グラファイト基板とカーボン粒子間の有機液体中でのフォースカーブ測定を種々の温度下で行った結果から,この,有機液体にとってfavorableな擬似スリット状制限空間内で,凝固点が上昇していることを明らかにし,表面間距離と凝固点上昇の関係を見出した. 3.モデル検証 固体表面からの相互作用力と,ナノ空間ゆえのバルクと異なる物性に立脚し,制限空間内流体が「感じる」圧力の概念を新規に提案し,相挙動を定量的に予測可能なモデルを構築した.本モデルは分子シミュレーションによる結果と,AFMによる測定結果の両系において,任意パラメータをいっさい含まずに,極めて良好に現象を予測することに成功し,その概念の妥当性,定量的健全性,実用的有用性を明らかにすることに成功した.
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