研究概要 |
^1H-NMR緩和時間測定により加熱・冷却に伴うピッチの分子運動性の変化を評価し,光学的異方性組織の展開との関係について検討した.得られた成果を以下の示す. (1)光学的異方性組織はガウス型の緩和を示すスピン-スピン緩和時間,T_2,の短い成分,G_1,として観察された. (2)保持時間が短い,即ち重縮合反応等による芳香族環の発達が十分に進行していない条件では,G_1成分よりもT_2の長い成分,G_2,が認められる. (3)ピッチを緩やかに冷却した場合,G_2成分はG_1成分に変化し冷却後のピッチには光学的異方性組織の微少球が生成する.この変化は不可逆であり,再加熱によってもT_2は変化しないことから,G_2成分は光学的異方性組織の前駆体と考えられる. これらの結果は,適当な条件下では比較的環構造の小さな芳香族化合物でも積層構造を形成し,光学的異方性組織が展開可能であることを示唆している. 上記の結果を踏まえ,多環芳香族化合物としてピレンを,マトリックスとしてナフタレンとそのアルキル誘導体を用い分子動力学計算を行った.積層構造形成のダイナミックスに関して得られた結果を以下に示す. (1)アルキル側鎖のないナフタレンをマトリックスとした場合,ナフタレンとピレン間の相互作用により,系全体が積層構造を形成するが,アルキル側鎖数の増加に従いピレン同士の積層が支配的となる. (2)積層構造の形成はvan der Waalsおよびelectrostatics相互作用に強く依存する. (3)形成した積層構造は計算温度を上昇した場合にも安定に存在する. 以上の計算結果の検証のため,多環芳香族化合物の混合物の加熱・冷却,即ち溶融・再固化に伴う分子運動性の変化を観察した.その結果,溶融過程において多環芳香族の積層によると考えられる比較的T2の短い成分が出現し,冷却によりその強度が増加することを確認した. 以上,本研究で得られた結果より,多環芳香族の積層はマトリックスの性状に強く依存することを明らかにした.
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