研究概要 |
ラジカル付加反応は炭素-炭素結合形成反応として重要であり、有機合成において広範に用いられている。そのジアステレオ制御についてはこれまでに数多くの研究がなされており、高ジアステレオ選択的な反応もいくつか開発されているが,そのエナンチオ制御に関しては研究例がほとんどなく未開拓の分野であった。そこで本研究ではカルボアニオン反応のエナンチオ制御で既に有用性が明らかになっている「キラル配位剤手法」をラジカル反応([1,2]-Wittig転位およびStevens転位)に適用することでそれらのエナンチオ制御を試みた。 1)エナンチオ選択的[1,2]-Wittig転位の開発:ラジカル機構で進行することが知られている[1,2]-Wittig転位のエナンチオ制御について検討した。その結果、ジベンジルエーテル(アキラル)に不斉配位剤・光学活性ビスオキサゾリンとtBuLiを組み合わせ作用させることで光学活性な転位体(60%ee)を得ることに初めて成功した。さらに、触媒量の不斉配位剤を用いた場合にも当量反応と同等の光学純度で転位体が得られることを見出した。 2)エナンチオ選択的stevens転位の開発:Stevens転位は4級アンモニウム塩系のラジカル型1,2-アルキル転位であり,アルコキシド等の塩基によって進行することが知られている。この反応は古典的反応であるがそのエナンチオ制御はこれまで報告例がなかった。今回,塩基として光学活性アミノアルコール由来のアルコキシドを用いることで初めて光学活性な転位体を得ることに成功した。さらに塩基としてグルコース由来のキラルアルコキシドを用いることで,最高約40%eeの光学純度で転位体を得ることに成功した。
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