研究概要 |
フッ素は、F^-としての高い脱離能を持ちながら、非共有電子対によりα位のカルボカチオンを安定化する。これらの性質を利用し、gem-ジフルオロオレフィンをプロトン化することによって、通常では不安定な末端カルボカチオンを位置選択的に発生させ、その分子内Friedel-Crafts反応を行うことで、多環式縮合環が効率良く構築できることを見いだした。 分子内にアリール基を有する1,1-ジフルオロ-アルケンあるいは1,1-ジフルオロ-1,3-アルカジエンを2,2,2-トリフルオロエチルトシラートより調製し、これら各々にヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)溶媒中でFSO_3H・SbF_5あるいはスルホン酸を作用させたところ、α位のフッ素で安定化された末端カルボカチオンを経て、分子内アリール基とのFriedel-Crafts反応が進行した。環化後、さらにF^-の脱離を伴って再びα-フルオロカルボカチオンが発生し、その加水分解により5-7員環の二環式ケトンであるインダノン、テトラロン、ベンゾスベロン誘導体やナフトール誘導体を与えた。また、水酸基を導入した3,3-ジフルオロアリルアルコールも、スルホン酸酸性条件下に脱水を伴って同様のカチオン環化が進行し、テトラロン誘導体を与えた。 中間に再度生じるα-フルオロカルボカチオンをさらに分子内で捕捉するため、アリール基を二つ有するgem-ジフルオロオレフィンをHFIP溶媒中FSO_3H・SbF_5で処理したところ、タンデム環化がone-potで進行し、一挙に二つのフッ素を各々アリール基で置換した四環式化合物が収率良く得られた。また、これらのうち6/6/6/6環系の生成物は、Pd炭素を触媒に用いた脱水素反応により、[4]ヘリセンへと誘導することができた。 これらのカチオン環化反応では、フッ素が基質の活性化に有効に働いていることを確認した。
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