研究概要 |
本研究の対象は,海上交通システムにおける見張りの視認性である.得られた主要な結論の概括を次のように要約する. 野外視環境の物理的な特性と輝度差弁別閾との関係から,水平線の視認条件は,天空輝度と海面輝度との輝度差が天空輝度に対する輝度差弁別閾より大きいことを明らかにした. 海上交通システムの全体像を把握し,海難の実態を調査した.航海視環境の物理的な特性と,衝突海難の事例調査に基づく「見張り不十分」とされる海難原因の背景要因を明らかにし,航海船橋の水平面照度は,太陽高度をパラメータとして標準化できることを示した.裁決録に示された衝突海難1000件の事例調査をもとに,太陽高度が40°以下,太陽相対方位が0°(太陽方位に対して±22.5°)の場合,衝突海難割合が突出して多いことなどを示した.さらに,見張りの視認性を評価するとともに,見張り要領を提言し,見張りの視認性を改善するための重要性を確認した.物標が見えないということは,必ずしも物標が存在していないことではなく,適切な見張りとは,心理的な要因と生理的な要因等を考慮しなければならないことを示した. 船舶の視認について"ビジビリティレベル(VL)"という概念を導入し,海上における船舶の見えやすさを表現し,見張りの視認性を評価する指標として,輝度差弁別閾に対する背景輝度と船舶の輝度との輝度差の割合で示されるVLを提案した.航海船橋における見張り要領をエリア別に(1)6海里以遠:"視認困難エリア",(2)3〜6海里:"初認エリア",(3)3海里以内:"監視エリア"と提言した. 実船実験により得られたあらかじめ判っているときのVLと,海難審判の事例から抽出したあらかじめ判っていなかったときのVLとを用いて検討した結果,太陽高度に基づく航海視環境の違いにかかわらず,海上におけるフィールドファクターは約3であろうと推察した. 今後の課題は,海上交通システム全体を災害防止という視点で捉え,Machinc Factors,Management Factorsに関してそれぞれの要素を検討することである.さらに,Media Factorsでは船体塗色や浮標塗色,信号色等の色彩に関する検討が残されており,Human Factorsについては,本研究で示した予知の問題,とりわけ海難防止のための危険予知は,早急に解決しなければならない課題である.
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