研究概要 |
本研究は,近縁種でありながら生態的に顕著な違いを示す,テッポウユリとタカサゴユリの生態関連形質の進化・遺伝的背景を解明することを目的として行われた. アロザイム変異に基づく集団遺伝学的解析は,タカサゴユリが,琉球列島と台湾をつなぐ列島弧の形成がほぼ完了した,更新世後期頃に,テッポウユリの南方周縁集団から派生した比較的新しい種であることを示していた.また,は種後1年以内に開花に至るという,タカサゴユリに特異的な「早咲き」性は,テッポウユリに比べ,植物体の地下部における年間の物質純生産がさほど変わらなくとも,地上部における年間の物質純生産が,有意に大きくなることに反映されているようだった. タカサゴユリとテッポウユリの種間雑種第一代の個体は,すべて年内に開花し,タカサゴユリに特異的な「早咲き」性を示した.また,タカサゴユリの自家和合性および開花期は,概ね雑種第一代で優勢的に発現した.したがって,こうした一連の生態形質に関わる遺伝子の優性突然変異が,比較的短期間のうちに祖先集団内に蓄積されたことにより,タカサゴユリが成立したと考えられた. 雑種第二代においては,「早咲き」性を示す個体と示さない個体が見られた.「早咲き」性の発現は,量的形質である,年間の純生産量(個体サイズ)と相関があり,純生産量が大きい個体ほど,「早咲き」性を示した.このことから,純生産量を制御するいくつかの遺伝子が,「早咲き」性の発現に関与していると推察された. 雑種第二代集団を用いてRAPDマーカーの遺伝分析を行ったが,発現が安定しているマーカーを十分に得ることが困難で,遺伝連鎖地図の構築が困難であった.AFLPのような発現安定性が高いマーカーを用いて遺伝連鎖地図を構築し,各生態関連形質のQTL解析を進めていく必要があると思われた.
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