研究概要 |
日本固有の野生種であるニホンミツバチは,温和な性質,高い耐病性,害敵に対する抵抗性,低温下での訪花性といったセイヨウミツバチに見られない長所が挙げられる.一方,観察時に騒ぎやすく,逃去性や分蜂性が高く,収蜜力が低いという欠点がある.そこでニホンミツバチの飼育の安定化と養蜂種としての実用化を目的に選抜育種を試みた. 1.所有の飼育群や日本各地がら収集した群の中から,女王蜂の多産卵性,低逃去性,わずかな刺激に対して巣板上を走り回らない性質に注目して選抜を行った.交配は人工授精去,光周処理による交尾飛行時刻の制御と雄蜂の飛行をコントロールした自然交配法を組み合わせて実施した.1年目は15群の中がら3群を選抜した.2年目は選抜した22群の中から5群,3年目は15群の中から7群を実験群とした. 2.選抜群の評価では,巣箱重量の増加,高い造巣活動において選抜の効果が認められた.さらに巣板上を走り回らずに巣板に止まる時間は,非選抜の15〜30秒であるのに対して,選抜群で90秒以上を示した.これは移動時での蜂群の安定化,蜂群管理,逃去の軽減にとって重要な形質として認められた. 3.イチゴ及びブルーベリーに対する花粉媒介能の検討では,雨天,曇天,晴天時での働き蜂の活動を調査した.各条件下で,選抜群は非選抜群より出帰巣数は多く,活動的であることが示された.ブルーベリーの果実重量,種子数では,選抜群と非選抜群の間で有意差は見られながったが,自然解放区との間では,有意差が認められた.セイヨウミツバチとの比較では,曇・雨天時の低温高湿,低照度下で,ニホンミツバチの方が活動性は高いことが認められた. 早春の低温下や雨天時の低照度下におけるポリネーターとしてニホンミツバチの有用性が示された.今後さらに選抜育種を繰り返し,より改良された系統を作出することで,多くの農作物でニホンミツバチが利用されると考えられる.
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