研究概要 |
γ-hexachlorocyclohexane(HCH)分解菌UT26由来のγ-hexachlorocyclohexane(HCH)dehydrochlorinase(LinA)は,補因子なしにγ-HCHから直接脱塩化水素を行うが,一次配列上の相同性を示す酵素が存在せず,その反応機構・起源については全く不明である。 LinAの反応機構の解明を目的とし,LinAの立体構造予測及び活性中心のアミノ酸残基の同定を行った。コンピューターを用いた立体構造予測により,LinAは,既に立体構造が解かれているscytalone dehydratase,steroid Δ-isomerase,nuclear transport factor 2,naphthalene 1,2-dioxygenaseのβ-subunitと立体構造上の相同性を示すことが予想された。これらの蛋白質は異なる酵素活性を有するが,立体構造上の相同性を示すことが知られている。部位指定変異導入とランダム変異導入により20種類以上のLinAの変異酵素を作製し,これらを大腸菌中で高発現し,野生型酵素と活性を比較した。その結果,活性を失った変異酵素は予想立体構造上の活性中心あるいはその近傍に変異が入っているのに対して,活性を残している変異酵素は酵素の表層部分に変異が入っているという傾向が見られたことから,予想立体構造の妥当性が確認された。また,LinAの活性にはAsp25とHis73のペアによるプロトンの引き抜きが必須であることが明らかになった。この,Asp-Hisのペアによるプロトンの引き抜きはscytalone dehydrataseの活性にも必須であり,LinAが脱水酵素から脱塩化水素酵素に進化したものである可能性が強く示唆された 更に,LinAの代謝産物の立体化学的解析を行った。LinAによって生じるγ-PCCHのプロトンNMRスペクトルは,アルカリ条件下での化学的な1,2-biaxial HCl pairの脱塩化水素反応によって生じるγ-PCCHのそれと同一であった。しかし,CDスペクトル解析を行ったところ,LinAによって生じるγ-PCCHは,一方の鏡像異性体しか含んでいないことが明らかになった。さらに,化学合成したγ-PCCHのラセミ体をLinAと反応させたところ,1,2,4-TCBに加えて,1,2,3-TCBが生じた。これは,LinAの作用によって生じるtetrachlorodieneの種類の違いによるものと考えられた。以上の結果から,LinAは立体構造依存的に1,2-biaxial HCl pairの脱塩化水素反応を触媒すると結論した。LinAによる基質の立体構造認識は,LinAの立体構造モデルからも説明可能である。 以上,LinAの反応機構に関する重要な知見を得ることに成功した。
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