研究概要 |
タンパク質リン酸化酵素・プロテインキナーゼC(PKC)は、強力な発がんプロモーター・ホルボールエステルの主要なレセプターである。PKCは通常、触媒領域が調節領域に覆われていて不活性であるが、リン脂質存在下、発がんプロモーターがC1ドメイン(C1A、C1B)に結合することによってコンホメーションが変化し、活性化される。しかし、PKCを活性化する化合物がすべて、発がんを促進するわけではない。本研究者らは、PKCに2つのリガンド結合部位(C1AおよびC1B)が存在することがその主たる原因と考えている。全長のPKCを用いた解析では、個々のC1ドメインの機能を正確に評価できない。しかしPKC C1ドメインは、アミノ酸残基約50個よりなる亜鉛フィンガーであることから、部分構造であっても亜鉛イオンにより正しくフォールディングできるものと考えられた。 本研究者らは、全PKCアイソザイム(PKCα,β,γ,δ,ε,η,θ)のC1AおよびC1Bを個別に化学合成し、これらの亜鉛によるフォールディング条件を確立するとともに、ホルボールエステルおよびその各種誘導体に対する結合定数を正確に測定することに初めて成功した。またPKCγにおいては、2つのC1ドメインが共に全長の酵素に匹敵するPDBu結合能を示したことから、C1A、C1Bを含む116残基のモデルペプチド(γ-C1A-C1B)を化学合成し、機能解析を行なった。γ-C1A-C1Bは、Fmocアミノ酸を用いた固相法により、フラグメント縮合を用いることなく一気に合成できた。亜鉛でフォールディングしたγ-C1A-C1Bは、全長のPKCγと同等のPDBu結合能を示し、エレクトロスプレー質量分析法により、亜鉛を特異的に4原子配位していることを確認した。
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