研究概要 |
タブノキは高木の常緑広葉樹として最も北方へ分布を広げている樹種のひとつで,東北地方の海岸部が北限になっている。この北限域のタブノキ林の更新特性を明らかにし、東北地域の海岸林の保全に活かしていくにはどのような計画をたてていくべきかを検討した。 タブノキ純林内では種子は散布された翌年の夏にほとんど発芽したのに対し,タブノキ林縁部では多くの実生が散布された年の秋に発芽した。2年生実生のサイズは光環境を反映し、タブノキ林内よりも林縁や落葉樹林内が大きかった。このようにタブノキ林内より林縁部や落葉樹林内の方がタブノキ実生の定着に適した条件を有していた。また,林縁の当年秋発芽個体と翌年夏発芽個体の成長量を比べると、当年秋発芽個体の方が良好であり,林縁では発芽時期の違いが成長に影響することが示唆された。 苗畑実験で人為的に果肉を除去して播種した種子は30%が播種した秋に発芽した(秋発芽)が、果実のまま播種したものはほとんど翌年の春以降に発芽した(春発芽)。秋発芽の実生の70%は発芽直後の冬や早春に地上部が寒さで枯れてしまった。しかし、相対光量子束密度30%の光環境下では、枯損をまぬがれた秋発芽実生は春発芽実生よりも有意に早く成長した。鳥の被食によって果肉が除去されることが発芽を早めることになり、北限域での予測しにくい環境下では実生の生存に有利に働いていることが推察された。 このような常緑樹の中でもパイオニア的な性質を有するタブノキの更新特性を活かすには、現存する狭い範囲のタブノキ林を原生保存するのではなく、タブノキ林を含むもう少し広い範囲の地域でダイナミックな保全計画を立てることが必要であると考えられる。
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