研究概要 |
ポリエチレングリコール(PEG)による木材の寸法安定化はバルキング効果によって発現するため,木材細胞壁内にPEG分子が浸透することが不可欠である。しかしながら,これまで細胞壁中には入れないとされていた分子量3000以上のPEGによっても寸法安定性が得られるとの矛盾が存在していた。この矛盾には熱の影響が関与していると考えられたため,分子量の異なる数種のPEGを用いて,処理木材の寸法安定性に及ぼす処理温度の影響を検討するとともに,木材へのPEGの吸着実験を行い,PEG吸着量および溶媒(水)の選択的収着量の温度依存性を検討するとともに,PEGの木材細胞壁中での存否の確認を目的とし,処理木材の力学的性質を調べた。得られた主な結果は,1.処理温度あるいはその後の乾燥温度が高いほど処理木材は高いバルキング効果(B.E.)を示すが,この傾向は高分子量PEGほど著しい。2.高分子量PEGによる低温処理で認められたB.E.は,乾燥により固化したPEGのコーティング効果に起因する可能性が高い。3.供試PEGの吸着量は温度の上昇とともに増加するが,増加の程度は高分子量PEGの方が著しく,PEG 20000を用いた場合,溶媒の選択的収着量は温度上昇に伴って著しい減少を示した。4.力学試験の結果は,温度上昇に伴ってより多くの高分子量PEGが木材細胞壁中に浸入することを示している。5.以上のことから,処理温度あるいは処理後の乾燥温度の上昇による高分子量PEGによる処理木材の寸法安定性の著しい向上は,温度上昇に伴う細胞壁中の水の凝集構造の緩みに起因して,高分子量PEG分子の細胞壁中への浸透が容易になるためと説明され,従来の矛盾が解決された。
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