研究概要 |
タラバガニ属はタラバガニParalithodes camtschaticus,アブラガニP.platypus,ハナサキガニP brevipesの3種から成る。日本周辺の北洋において,タラバガニが広域分布するに対し,ハナサキガニは根室海域に限定的に分布する。本研究の端緒は平成7-8年度に遡るが,その時生産した両種の稚ガニは,水温を10-12℃に制御した飼育条件で,平成12年度に種内での交尾・産卵に成功した。しかし,交雑は行なわれず,分布・生態においても種間差が認められ,概してハナサキガニの方が環境要求に厳密であると考えられる。平成9-10年度はタラバガニを重点的に生産対象にしたので,平成11-12年度はハナサキガニを主に対象にした。 ハナサキガニ,タラバガニのゾエア期の生残率は,水温8-10℃で珪藻Thalassiosira nordenskioeldiiとArtemiaノープリアスを併用投餌した場合,それぞれ1-78%,0-87%の広い範囲で変動した。これは沈降したT.nordenskioeldiiにゾエアが絡まり,衰弱した個体が冷水性の病原Vibrioに感染するためではないかと考えられる。マグロ油(DHA含量23.3%)を吸着した凍結乾燥T.nordenskioeldii(DHAは0.3mg/gから11.5mg/gに増加)を摂取した強化Artemiaノープリアスを投餌したハナサキガニのゾエア生残率は74.2%で,無強化Artemiaノープリアス投餌区の40.4%に比較して有意に高い値を示した。しかし,グロコトエ期の生残率は病原Vibrioの影響を受け,それぞれ11.8,6.4%と低く,通算するとそれぞれ8.1,2.0%で,DHA強化の効果はある程度認められるものの病気を抑制するに至らなかった。しかし、ゾエア3齢の中間期において全換水を実施することにより、薬剤に依存することなく,グロコトエ期の生残率を50%以上に維持することができた。なお,完全養殖個体に由来する幼生の生残率(ゾエア期85.3%)は天然産(78.0%)に較べて高く,再生産に飼育条件特に餌料(成熟までの4年間ムラサキイガイのみ投餌)の寄与が示唆された。
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