研究概要 |
産卵後に死亡するサケ科魚類のモデルとしてギンザケOncorhynchus kisutchを,死亡しない方のモデルとしてスチールヘッドトラウトOncorhynchus mykisを用いて,未成熟個体から排卵・排精個体まで定期的に採集し,血中コルチゾル濃度と総白血球数との関係を調べた.その結果,ギンザケの血中コルチゾル濃度は未成熟個体では平均80ng/ml程度であるのに対し,排卵・排精を境に急激に上昇し,特に体表の水生菌浸潤の著しい個体では400〜500ng/mlに達した.また,このような個体では総白血球数が未成熟個体に比べ半減しており,血中immnoglobulin(Ig)M濃度も未成熟個体に比べ有意に低下していた.これに対し,スチールヘッドトラウトでは未成熟個体においても排卵・排精個体においても血中コルチゾル濃度は80〜100ng/mlであり,総白血球数およびIgM濃度もほとんど変化がなかった.また,排卵・排精個体の体表には水生菌浸潤は認められなかった.従って,ギンザケでは視床下部-下垂体-間腎腺系のフィードバック機構に,排卵・排精を境として何らかの異常が生じ,正常な血中コルチゾル濃度を維持できなくなる結果,免疫機能が低下して二次的な水生菌感染などにより死に至るものと推察された.また,ギンザケでは脳内に,脳老化の指標となるとされるβアミロイド蛋白の蓄積が認められ,フィードバック機構の異常と脳の老化との関連が示唆された.
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