研究概要 |
平成10年4月から平成12年5月までの間、採取した紐形動物Procephalothrix sp.(未記載種)340個体は個体差があるもののすべてが有毒であった。また、猛毒の指標とされる1,000MU/g以上の個体の出現率は、84%であり、ほとんどの個体が毒を高濃度に蓄積していることが判明した。平成11〜12年度を通して、毒性の推移を検討してみると若干の毒性の増減は認められるものの、ヒモムシの採取期間を通して毒力は高く、季節による顕著な毒力の変化は認められなかった。一方、カキのむき身に関しては、毒の移行などは認められず、食品衛生上問題はないものと考えられた。次いで、本紐形動物の毒成分の単離精製を試みた。その結果、活性炭処理、Bio-Gel P-2、Bio-Rex70(H^+)カラムクロマトグラフィーおよび再結晶により、比毒性3,520MU/mgの板状結晶が得られた。この結晶の^1H-NMRスペクトルを測定したところ、TTXに特徴的なC4a-H(2.21ppm、d、J=9.4Hz)、C4-H(5.36ppm、d、J=9.4Hz)が観測され、本精製毒の主成分がTTXであることが証明された。最後に、広島湾以外の日本沿岸に生息する紐形動物の毒性と毒成分について検討を加えた。供試した日本沿岸に生息する紐形動物(14種)のうち、GC-MS分析から、C_9塩基の存在が観察されたのは、麻痺毒性の認められた北海道厚岸湾産Procephalothrix.simulus、岩手県大槌湾で採取したProcephalothrix属類似ヒモムシ(2種)の3種であった。興味深いことに毒性試験の結果が、ND(不検出)であった北海道厚岸湾産L.torquatus、L.torquaticus及び岩手県大槌湾で採取したN.punctatulus、未記載種についてもキナゾリン骨格(C_9塩基)に特有のフラグメントイオン(m/z=376、392、407)が、ほぼ同じ保持時間(12.09〜16.14分)で検出された。
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