研究概要 |
巻き貝の一種Lamellaria sp.やホヤ類Didemnum sp.から単離されたイソキノリン骨格を持つアルカロイドであるラメラリン類は、ウニ卵の細胞分裂阻害、細胞毒性、免疫調節活性、エイズウイルス増殖阻害活性、ガン細胞の多剤耐性(MDR)機構阻害活性など多様な生理活性を持つことが知られている。 著者等が合成に成功したラメラリンDの細胞毒性を二種類の正常細胞(Vero及びMDCK)及び腫瘍細胞(HeLa及びXC)を用いコロニー形成阻害活性を指標に調べた結果、細胞種間の選択性には欠けるものの、ラメラリンDは対照薬剤として用いた抗生物質マイトマイシンCをしのぐ高い活性がみられた(IC_<50>10-23nM)。 そこで本研究では、ラメラリン類の構造と活性の関係を解明し、新規抗ガン剤の開発のための基礎的知見を得ることを目的とした。具体的には、以下の内容の研究を行った。 1)ラメラリン基本骨格上に結合した種々の酸素官能基の細胞毒性に対する役割を明らかにするために、これらを除去した化合物あるいは他の基で置換した誘導体を各種合成し、その生理活性を調べた。 2)8,9,13,14位にメトキシ基を持つラメラリン誘導体は天然には存在しないが、市販試薬パパベリンからの誘導が可能であり、合成のステップを大幅に短縮することができ、医薬としての実用化には有利であるので、A環上の置換基を変化させた一連の8,9,13,14-テトラメトキシ体を合成し、それらの生理活性を天然物のものと比較した。 その結果、ラメラリンDの8位と20位の水酸基は細胞毒性発現に必須であるが、13位のメトキシ基、14位の水酸基および21位のメトキシ基は細胞毒性に必ずしも関与しておらず、場合によっては取り除くことが可能であるなど、ラメラリンをモデルとした新しいタイプのガン治療薬の開発研究へと展開する上で基礎的かつ重要な知見を得ることができた。
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